卵のふわふわ

「八丁堀喰い物草紙・江戸前でもなし」というサブタイトルがついているように、江戸時代の八丁堀が舞台です。
どちらかというと海外小説を選んで読むことが多いんだけど、これはふと本屋で「卵のふわふわ」というタイトルにひかれて買ったもの。
同心の忠右衛門とその妻おふで、ふたりの息子で同心の正一郎とその妻のぶの4人を中心に描かれる江戸の食べもの。
その食べものにまつわる切ないエピソードや楽しい中にもちょっとひねりのある話。
舅の忠右衛門が食い道楽の一風変わった男として描かれるので(なんといってもおいしい物を書き留める「覚え帖」を作っているくらい。)実にいろんな食べものが出てきます。
黄身返し卵*1「淡雪豆腐」「水雑炊」に「心太」お正月の黒豆に添えられている紅色の「ちょろぎ」
そしてこの「卵のふわふわ」
これはお吸い物よりちょっと濃いめに加減したおつゆの中に、砂糖を少し入れて溶きほぐした卵を加えふわっと火が通ったところを食べるもの。なんてことない料理なんだけど、料理にからませた登場人物の気持ちが実によく合ってて、とてもおいしそう。
一気に読んで、他のも読みたくなり「泣きの銀次」「あやめ横町の人々」も読みました。
まるで作者は江戸時代に生きてたことがあって、そこで見聞きしてきたことを書いたように江戸の街も人々もリアルでおもしろかった。出てくる女のコがみんな向こうっ気が強くて、鉄火肌、おきゃんといった感じのコばかりなのも読んでて楽しい。

*1:白身が中で黄身が外側と反対になったゆでたまご。実際には不可能ですが。