タルト・タタンの夢

とにかく昔から食べるものが出てくる小説に弱いのです。
食べるものをわざわざ小説家が自分の小説に詳しく書くからには、当人が食べることや料理をすることが好きに違いない、そして「作る人」でなければ書けない描写が必ずあるもので、そういう読んでいるとお腹が空いてくるような文章が好きです。逆に言えば、食べものが出てこない小説は魅力的に感じないくらい。
食いしんぼうや作る人、食べる人が出てくる小説は、登場人物もいきいきと動いているような気がする。
個人的にはミステリー+料理、という組み合わせは無条件に選んでしまいます。
この「タルト・タタンの夢」はビストロ・パ・マルというフランス料理のお店が舞台。登場人物はもちろんこのフランス料理のお店のシェフ、ソムリエ、ギャルソン、そしてお客様。
「創元クライム・クラブ」というシリーズの中の1冊だけど、殺人事件はまったく起こらない。料理やお菓子とシェフとお客をめぐる小さな謎解きの短編が7つ。本格的なミステリ好きには物足りないかもしれないけど、次から次へと出てくる料理がとってもおいしそうで一気に読みました。
鴨のアピシウス風、鵞鳥のコンフィ、カスレ、ロニョン・ド・ヴォーにブランダード、ブフ・ブルギニョン、子羊のロースト、ブレス鶏のグリエ、ピペラード、ブルビ*1さくらんぼのジャム、タルト・フランベ・・・あああ、どれも気取ってないメニューでおいしそう。
甘いものも、表題作のタルト・タタン、冷たい桃とミントのスープ、ガレット・デ・ロワマロニエの蜂蜜をつかった熱いスフレ、ボンボン・ショコラにヴァローナのチョコレートを使ったタルト・オ・ショコラ。
読んでる途中で「どの短編にもヴァン・ショー*2が必ず出てくるのは何でだろう・・・?」ストーリー的に鍵となるドリンクではないけど、必ずどっかに出てくる。まるで村上春樹のビール並み。もう初夏だというのにやたら飲みたくなって困りました。
さっき東京創元社のサイトを見ていたら、このビストロ・パ・マルが舞台の続編が来月出るらしいのですが、タイトルが「ヴァン・ショーをあなたに」。ヴァン・ショーをめぐるシェフのフランス修業時代のエピソードが明かされるらしい。やっぱりエピソードがあったんだー。楽しみ。

タルト・タタンの夢 (創元クライム・クラブ)

タルト・タタンの夢 (創元クライム・クラブ)

*1:バスク地方の山羊のチーズ

*2:クローブやシナモン、りんごやオレンジと一緒に熱くして蜂蜜などで甘みをつけた赤ワイン。英語で言うMulled Wine。冬の飲み物。